山形市七日町の
ロック筆談カフェ ブアイソウ
オーナーです。
今回語りたいのは、アメリカのアニメーション作品『アドベンチャー・タイム』。
カラフルで、奇妙で、ふざけていて、ときには意味がわからない。なのに、笑っているうちに、いつの間にか人生について考えさせられている。
そんな不思議な作品です。
そして、私が特に語りたいのが、主人公フィンの相棒である犬、ジェイク。 素晴らしくかわいい犬?です。 今回は、ジェイクのかわいさを入口にしつつ、この作品が世界でどのように評価されているのか、なぜ数々の賞を受賞しているのか、そして制作方法まで掘り下げてみたいと思います。 1.『アドベンチャー・タイム』とは何なのか 『アドベンチャー・タイム』は、ペンデルトン・ウォードが生み出したアメリカのアニメーションシリーズです。 原型となる短編作品が2007年に制作され、テレビシリーズは2010年にカートゥーン ネットワークで放送開始。全10シーズンにわたって展開され、本編は2018年に最終回を迎えました。 舞台は、不思議な生き物たちが暮らす「ウー大陸」。 人間の少年フィンと、魔法のような能力を持つ犬のジェイクが、さまざまな仲間と出会いながら冒険を繰り広げます。 お菓子でできた王国があり、氷の魔法を使う王様がいて、吸血鬼や魔法使い、奇妙なモンスターたちが暮らしている。 設定だけを聞くと、子ども向けのにぎやかなファンタジー作品です。 しかし、実際に観てみると、それだけではありません。 突然、哲学的な話になる。登場人物の過去が明かされる。昨日まで笑っていたキャラクターが、実は深い孤独を抱えていたとわかる。 そして、その重い話の直後に、意味不明なギャグが飛び出したりする。 この振れ幅がすごい。 しかも、作品はその落差を無理に説明しません。ふざけた場面はふざけたまま、悲しい場面は悲しいまま、両方を同じ世界に存在させています。 その結果、奇妙なファンタジーなのに、登場人物たちが驚くほど身近に感じられるのです。 2.何が評価されているのか ピーボディ賞の選評が興味深い。 『アドベンチャー・タイム』は、単なる人気アニメではありません。 2014年には、アメリカの放送・電子メディア分野で優れた作品を顕彰するピーボディ賞を受賞しています。 公式の選評では、本作を、コメディー、ホラー、童話、成長物語などを融合させた、従来の枠組みに収まらない作品として評価しています。 特に注目したいのは、選評が、作品の奇抜さや笑いだけでなく、恐怖、悲しみ、希望、不安といった感情をきちんと描いている点を高く評価していることです。 つまり、評価されたのは、ただ変なキャラクターが登場することでも、カラフルな映像でもありません。 子ども向けの楽しさを失わずに、複雑な感情や人生の問題を描いていること。 これが作品の大きな価値なのです。 (出典:ピーボディ賞公式サイト「Adventure Time」) 大人向けのテーマを、子どもにも楽しめる形で描く 例えば、登場人物が寂しさを感じていたとします。 一般的なドラマなら、過去の出来事を説明したり、本人に気持ちを語らせたりすることで、観客に事情を理解させるかもしれません。 ところが『アドベンチャー・タイム』では、その人物が奇妙な行動を取ったり、冗談を言ったり、誰かに執着したりすることを通じて、少しずつ内面が見えてくることがあります。 最初は笑っていたのに、事情がわかると笑い方が変わる。 最初は嫌なキャラクターだと思っていたのに、その背景を知ると、単純に嫌いとは言えなくなる。 人間は、いつも自分の気持ちを正確に説明できるわけではありません。 自分でも何がつらいのかわからないことがあるし、寂しいのに人に優しくできないこともある。 この作品は、そうした不器用さを、ファンタジーという自由な表現を使って描いています。 だからこそ、大人が観ても考えることがたくさんあるのでしょう。 3.エミー賞の受賞歴から見える、作品の技術的な強さ 本作は、アメリカのテレビ芸術科学アカデミーが運営するエミー賞でも高く評価されています。 テレビアカデミーの作品データベースによると、シリーズは15件のノミネートと8件の受賞を記録しています。 その中には、短編アニメーション番組部門での受賞だけでなく、個人のアニメーション技術を対象とした賞も含まれます。 例えば、2015年には「Walnuts & Rain」のストーリーボードアーティスト、トム・ハーピッチが個人業績部門で受賞。2016年には「Stakes Pt. 8: The Dark Cloud」のストーリーボードアーティストとして、同じくトム・ハーピッチが受賞しています。 また、2018年には「Ketchup」でキャラクターアニメーションを担当したリンジー・スモール=ブテラが受賞しました。 ここから見えてくるのは、作品が物語の面白さだけでなく、絵を通じた表現やキャラクターの動きといった、アニメーションならではの技術でも評価されていることです。 ストーリーボード、つまり絵コンテは、完成映像の前段階にすぎないと思われがちです。 しかし、この作品では、絵コンテそのものが物語を生み出す重要な創作の場になっています。 その制作方法と受賞歴を合わせて見ると、評価の理由が少しわかりやすくなります。 (出典:米国テレビ芸術科学アカデミー公式「Adventure Time — Awards & Nominations」) 4.実は、台本よりも絵コンテが主役のアニメだった ここからが、私が特に面白いと思った部分です。 一般的なアニメ制作を想像すると、まず脚本があり、その脚本に従って絵コンテを作り、アニメーションを制作していく、という流れを思い浮かべるのではないでしょうか。 もちろん、作品によって制作体制は異なりますが、脚本を中心に進める方式は広く使われています。 ところが『アドベンチャー・タイム』は、ストーリーボード主導型、つまり絵コンテを中心に物語を作り上げる方式を採用していました。 シリーズのヘッドライターを務めたケント・オズボーンは、2016年のインタビューで、この制作方法について説明しています。 本作では、絵コンテの担当者は、単に脚本を絵にする人ではありません。物語を書く人でもあるのです。 制作の流れはどうなっていたのか 大まかな流れを整理すると、次のようになります。 ① 物語のアイデアを考える まず、制作チームがエピソードの大まかなアイデアを考えます。 フィンとジェイクが何をする話なのか。どんな問題が起きるのか。どこへ向かい、どう展開するのか。 この段階では、細かなセリフや演出をすべて決めるのではなく、物語の骨組みを作ります。 ② 数ページのアウトラインにまとめる アイデアを、物語の展開がわかる簡潔な構成案にします。 ケント・オズボーンの説明によると、制作では通常、2〜3ページ程度のアウトラインが用いられ、物語の主要な展開を整理していました。 大切なのは、ここで完成した脚本を作るのではなく、物語の大枠を定めることです。 ③ 絵コンテ作家が物語を具体化する アウトラインが承認されると、絵コンテの制作に進みます。 ここで担当者は、キャラクターをどんな表情にするか、どの角度から映すか、どんな動きをさせるか、どこでギャグを入れるか、といった細部を考えます。 例えば、「フィンが朝起きる」という単純な場面でも、目覚まし時計で起きるのか、BMOに顔をつつかれて起きるのかで、場面の印象は大きく変わります。 その選択を通して、キャラクターの性格も描かれていくのです。 しかも、絵コンテを描く過程で、セリフや新しい展開が生まれることもあります。 ④ 絵コンテを確認し、声や映像の制作へ進む 絵コンテができたら、制作チームや放送局側の確認を受け、必要な修正を加えます。 その後、絵コンテに含まれるセリフを収録用に整理し、声優による収録を行います。録音された音声と絵コンテを組み合わせて、場面の長さや流れを確認できる映像を作り、アニメーション制作へ進みます。 つまり、正確には「台本が一切存在しない」ということではありません。 物語の創作において、完成したセリフ付きの脚本を出発点にするのではなく、絵コンテを通じてセリフや演出を具体化していく。 これが本作の特徴です。 (参考:Skwigly Animation Magazineによるケント・オズボーンへのインタビュー、2016年) 5.この制作方法だからこそ生まれる面白さ では、絵コンテを中心に作ると、何が変わるのでしょうか。 ひとつは、映像表現と物語表現が密接につながることです。 脚本だけで考えている段階では、キャラクターの動きや表情は、まだ想像上のものです。 しかし、絵コンテを描く段階では、実際に画面の中で何が起きるのかを具体的に考えなければなりません。 セリフを一言増やすより、妙な顔を一瞬見せたほうが面白いこともある。 長い説明をするより、奇妙な動きをさせたほうが伝わることもある。 逆に、何も起きない時間を少し残したほうが、キャラクターの感情が伝わることもあります。 『アドベンチャー・タイム』は、こうした視覚的な発想を生かしやすい制作方式だったと考えられます。 もちろん、ストーリーボード主導型だから必ず面白くなるわけではありません。脚本主導型にも優れた作品は数多くあります。 ただ、本作のように、奇抜な発想、独特の間、予想外の展開、キャラクターの表情や動きが魅力になっている作品では、この方式が創作上の大きな強みになったのでしょう。 さらに、絵コンテを担当する人たちがそれぞれの個性を持ち込めることも重要です。 同じキャラクターでも、担当する作家によって、ギャグの方向性や画面の構成、物語の展開に違いが生まれます。 複数の作家の発想が集まりながらも、フィンやジェイクたちが暮らす世界として成立している。 それは、作品全体に豊かな変化をもたらす仕組みでもあったのだと思います。 6.日本のアニメーション作家も参加していた 「フードチェーン」の衝撃。 この自由な創作姿勢を象徴するエピソードのひとつが、第6シーズンの「フードチェーン(Food Chain)」です。 この回では、日本のアニメーション監督・湯浅政明が脚本、ストーリーボード、演出を担当し、クリエイティブディレクターのチェ・ウニョンと協力して制作しました。 物語の中心になるのは、生態系における食物連鎖というテーマです。 フィンとジェイクが食物連鎖について学ぶことになり、その体験を通じて、食べる側と食べられる側の関係や、生き物同士のつながりが描かれます。 題材だけを見ると、学校の理科の授業のようです。 しかし、そこは『アドベンチャー・タイム』。学習教材のように説明して終わるはずがありません。 湯浅政明ならではの大胆な映像表現と、身体や形が変化していくような独特のアニメーションが組み合わさり、作品世界の中に、まるで別の作家の夢をのぞき込んだような感覚が生まれています。 ぐにゃぐにゃした感じが好きです。 ここで重要なのは、外部のクリエイターを招いたことではありません。 作品の基本的な世界観を維持しながら、異なる表現方法を持つ作家に、エピソード単位で大きな創作上の自由を与えたことです。 シリーズの世界をひとつの決まった画風や演出だけに閉じ込めない。 それもまた、『アドベンチャー・タイム』の魅力です。 7.そして、ジェイクはなぜこんなにもかわいいのか さて、そろそろジェイクの話に戻りましょう。 ジェイクは、体を伸ばしたり、膨らませたり、自在に形を変えたりできる28歳の犬です。 フィンと一緒に冒険をしながら、食べたり、遊んだり、音楽を楽しんだり、のんびりしたりしています。 五つ子たちの父親です。 ときには、驚くほど頼もしい。 ときには、びっくりするほど適当。 そして、とにかくかわいい。 でも、ジェイクのかわいさは、丸っこい姿や独特の表情だけではないと思うのです。 あの、肩の力が抜けた生き方そのものがかわいい。 ジェイクは、いつも全力で正義を貫くタイプではありません。 面倒くさそうにすることもあるし、自分の楽しみを優先することもある。いつでも立派なことを言うわけでもありません。 それでも、大切な場面では仲間を支える。 フィンが悩んでいるとき、ジェイクはいつも完璧な答えを出せるわけではありません。それでも、フィンのそばにいて、一緒に過ごし、時には独特の考え方を伝えます。 ジェイクは、正しさを振りかざすだけのキャラクターではないのです。 人間だって、いつも正しく、いつも前向きで、いつも誰かの役に立っていなければならないとしたら、疲れてしまいます。 何もしたくない日もある。くだらないことで笑いたい日もある。おいしいものを食べて、好きな音楽を聴いて、ただのんびり過ごしたい日もある。 それでも、誰かを大切にすることはできる。 ジェイクを見ていると、そんな当たり前のことを思い出します。 これは私自身の解釈です。 ジェイクの魅力は、単に能力が高いとか、性格が優しいとか、そういう説明だけでは語りきれないのです。 だらしなさも、楽しさも、頼もしさも、すべて含めてジェイク。 完璧だから愛されるのではなく、いろいろな面があるから愛おしい。 そこが、ジェイクの素晴らしいところだと思います。 8.フィンとジェイクの関係 違う者同士が一緒に生きることの物語でもある。 フィンは、正義感が強く、困っている人を助けようとする少年です。 ジェイクは、フィンよりも肩の力が抜けていて、物事を少し違う角度から眺めています。 二人は性格が違います。 考え方も違うし、行動の仕方も違う。 それでも、二人は親友であり、兄弟のような存在です。 相手を自分と同じ人間に変えようとしなくても、一緒にいられる。 思想の同調や多様性を強要しない。 自分にないものを持っている相手だからこそ、助けられることもある。 これは、現実の人間関係にも通じることではないでしょうか。 人はそれぞれ、得意なことも、苦手なことも、考え方も違います。 誰かの行動が理解できないこともあるでしょう。 しかし、理解できないことと、価値がないことは同じではありません。 自分とは違う相手にも、その人なりの事情や気持ちがある。 『アドベンチャー・タイム』は、奇妙な生き物たちが暮らす世界を描くことで、そんなことを自然に感じさせてくれます。 そして、登場人物たちは、失敗しながら関係を築き、変化しながら生きていきます。 そこには、誰かと一緒に生きることの難しさと、面白さの両方が描かれているのです。 9.ブアイソウも、少しだけウー大陸のような場所でありたい ロック筆談カフェ ブアイソウは、ロックを楽しめるカフェであり、筆談によるコミュニケーションも楽しめる場所です。 少し変わった組み合わせかもしれません。 でも、私は、世の中にはいろいろな楽しみ方や、いろいろな人との関わり方があっていいと思っています。 大きな声で話さなくてもいい。 会話が得意でなくてもいい。 ロックが好きでもいいし、そうでなくてもいい。 誰もが同じやり方で楽しむ必要はありません。 『アドベンチャー・タイム』の世界には、私たちの常識では測れない生き物や価値観がたくさん存在しています。 それでも、彼らにはそれぞれの暮らしがあり、悩みがあり、大切なものがあります。 現実の世界だって、もう少しそんなふうに考えていいのではないでしょうか。 違うからといって、間違っているわけではない。 理解できないからといって、価値がないわけでもない。 そして、いつも立派でなくてもいい。 たまにはジェイクのように、好きなものを楽しみ、仲間を大切にして、肩の力を抜いて生きてみる。 そんな生き方も、悪くないと思います。 『アドベンチャー・タイム』は、奇妙な世界を描いたアニメーションでありながら、私たちが日々の生活で忘れがちなことを思い出させてくれる作品です。 笑えること。怖いこと。寂しいこと。誰かを大切に思うこと。 そのどれかひとつだけが人生なのではなく、全部が一緒になって人生なのだと思います。 そして、そんな世界を自由に描き出した作り手たちにも、私は敬意を感じます。 というわけで、今回は『アドベンチャー・タイム』の魅力と、ジェイクのかわいさについて語ってみました。 ジェイク、かわいいです。 かわいいよ、ジェイク。 ブアイソウ店内には、アドベンチャー・タイム のグッズがあります。 探してみてください。 ロック筆談カフェ ブアイソウ オーナー 最賀万里
ロック筆談カフェ ブアイソウ
住所:山形県山形市七日町3丁目2-31
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